「忙しい」が口癖になっていませんか——経営者の時間の使い方を見直す
- 毎日現場作業に追われて経営を考える時間が取れない方
- 「自分がやった方が早い」とスタッフに仕事を任せられない方
- 「忙しい」が口癖になっていると自覚している方
- 経営者としての時間の使い方を見直したい方
- 現場から離れることに不安を感じている方
毎日が「やることリスト」に追われて終わる
朝5時に起きて搾乳に入り、飼料の手配をして、スタッフのシフトを調整して、午後は設備の修理に走り、夕方の搾乳が終わったら書類仕事——。気づけば日が暮れて、「今日も何もできなかった」とため息をつく。
「何もできなかった」の意味は、実は「現場作業はすべてこなした」ということです。つまり、やるべきことはやっている。でも、本当にやりたかったこと——経営の将来を考える、新しい取り組みを検討する、スタッフとじっくり話をする——そうした時間がまったく取れないまま一日が終わる。
そんな日々が何か月も、何年も続いていませんか。
「忙しい」が口癖になっている経営者ほど、実はこの罠にはまっています。忙しいこと自体が問題なのではなく、忙しさの「中身」が問題なのです。
「忙しい」は変化を拒否する言葉にもなる
少し厳しい話をさせてください。
「忙しくて、そんな余裕がない」——この言葉、経営改善や新しい取り組みを提案された時につい口にしていないでしょうか。
もちろん、物理的に時間がないのは事実です。牧場経営は体力勝負であり、手を抜けない仕事がたくさんあります。それは十分に理解しています。
しかし、「忙しい」という言葉が、無意識のうちに「変わらなくていい理由」として機能してしまうことがあります。新しいことを始めるのは怖い。今のやり方を変えるのは不安だ。そうした心理が「忙しい」の裏に隠れていることは、決して珍しくありません。
自分自身に問いかけてみてください。「本当に時間がないのか、それとも時間を作ることを避けているのか」と。
これは自分を責めるためではなく、現状を正確に把握するための問いです。
「忙しい」には物理的に手が足りない場合と、心理的に変化を避けている場合の二つがあり、まず自分の「忙しい」がどちらなのかを見極めることが最初の一歩です。
経営者にしかできない仕事は何か
時間の使い方を見直す際に、最も重要な問いがあります。
「今やっている仕事の中で、自分にしかできないものはどれか」
搾乳作業は、スタッフに任せられないでしょうか。飼料の発注は、ルーティン化してスタッフに引き継げないでしょうか。設備のメンテナンスは、外注や担当スタッフの育成で対応できないでしょうか。
多くの経営者は「自分がやった方が早いし、確実だから」と現場に入り続けます。その気持ちはよく分かります。自分の手で動かした方が安心だし、品質も担保できる。それは事実です。
しかし、経営者が現場作業に追われているということは、経営者にしかできない仕事——経営判断、組織づくり、将来設計——が後回しになっているということでもあります。
ここに大きなジレンマがあります。目の前の「緊急な作業」をこなすことで今日は乗り切れますが、「重要だけど緊急ではない仕事」を後回しにし続けた結果、組織の成長が止まり、やがて「緊急な問題」がさらに増えていく。忙しさが忙しさを生む、負のループです。
まず「週に2時間」を確保することから
「経営者の時間を確保しましょう」と言うのは簡単ですが、明日から突然8時間の空き時間が生まれるわけではありません。
だからこそ、小さく始めることを提案します。
まずは「週に2時間」でいいのです。この2時間は、現場作業には一切入らず、経営のことだけを考える時間として確保する。スケジュールに「経営時間」と書き込んで、他の予定と同じように守る。
最初は落ち着かないかもしれません。「この2時間で搾乳を手伝った方がいいのでは」「設備の点検をしておいた方が」——そんな気持ちが湧いてくるでしょう。しかし、そこをぐっとこらえて、経営のことに集中する。
この2時間で何をするかは自由です。3年後のビジョンを考える。スタッフの育成計画を練る。経営数字を冷静に分析する。新しい取り組みの情報を集める。あるいは、ただ静かに「うちの牧場はどこに向かっているのか」を考えるだけでもいいのです。
重要なのは「経営者として考える時間」を、意図的に作ることです。
まず週に2時間、スケジュールに「経営時間」をブロックし、現場作業に入らず経営のことだけを考える時間を意図的に確保すること。この小さな習慣が、経営者の働き方を変える起点になります。
「任せる」は「放り投げる」とは違う
経営者の時間を確保するためには、現場の仕事をスタッフに任せていく必要があります。しかし、ここで多くの経営者がつまずきます。
「任せたけれど、品質が落ちた」
「任せたら、トラブルが増えた」
「結局、自分がフォローに入って余計に忙しくなった」
こうした経験から「やっぱり自分でやるしかない」と結論づけてしまう方が少なくありません。
しかし、この問題の原因は「任せたこと」ではなく「任せ方」にあることがほとんどです。
「任せる」とは、ただ「これやっておいて」と作業を渡すことではありません。「なぜこの作業が大切なのか」「どこまでが合格ラインなのか」「困った時には誰に相談するのか」——こうした情報も一緒に渡すことが「任せる」ということです。
作業の手順だけでなく、その仕事の目的や背景を共有する。最低限守ってほしいラインを明確にする。そして、最初のうちはフォローアップの時間も確保する。この丁寧なプロセスを経てこそ、「任せる」は「放り投げる」とは違うものになります。
短期的には「自分でやった方が早い」のは事実です。しかし、中長期で見れば、スタッフが育ち、任せられる範囲が広がり、経営者はより重要な仕事に集中できるようになる。この投資をするかどうかが、組織の成長を左右するのです。
従業員10名ほどの牧場で、経営者が朝から晩まで現場に入り、休日もほぼ取れない状態が数年続いていました。「自分がやらなければ回らない」という思い込みが強かったのですが、ある時、体調を崩して1週間休まざるを得なくなりました。不安だらけの1週間でしたが、蓋を開けてみると、スタッフは大きなトラブルなく牧場を回していたそうです。この経験をきっかけに、業務の棚卸しを行い、経営者にしかできない仕事と任せられる仕事を明確に分けました。半年後には、週に1日は現場に入らず経営に集中できる日を確保できるようになったといいます。
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忙しさの「質」を変える
時間管理のテクニックは世の中にたくさんあります。しかし、農場経営者にとって最も大切なのはテクニックではなく「自分の役割を再定義すること」ではないでしょうか。
経営者の役割は「誰よりも長く、誰よりも多く働くこと」ではありません。「組織全体が良い方向に進むよう、舵を取ること」です。
舵を取る人が、船のあちこちで修理や荷運びに走り回っていたら、船はどこに向かっているか分からなくなります。もちろん緊急時には経営者も手を動かすべきですが、それが「日常」になっているなら、立ち止まって考える時間が必要です。
「忙しい」を減らすことが目的ではありません。忙しさの「質」を変えることが目的です。現場作業で忙しい日々から、経営判断や人材育成で忙しい日々へ。その転換が起きた時、牧場は新しいステージに進み始めます。
まとめ:「忙しい」の中身を問い直す
「忙しい」が口癖になっている経営者は、多くの場合、本当に一生懸命働いています。サボっているわけでも、怠けているわけでもない。だからこそ、忙しさの中身を冷静に見つめ直すことが大切なのです。
- 「忙しい」は現状維持の言い訳として無意識に機能することがある
- 経営者にしかできない仕事(経営判断・組織づくり・将来設計)が後回しになっていないか確認する
- まずは「週2時間」の経営時間をスケジュールに確保することから始める
- 現場を「任せる」ためには、目的・合格ライン・相談先を丁寧に共有する
- 忙しさの「量」ではなく「質」を変えることが、組織成長の鍵になる