「スタッフに任せられない」は、経営者の思い込みかもしれない
- 「自分がやったほうが早い」が口癖になっている
- スタッフに仕事を任せたいが、クオリティが心配で手放せない
- 自分が休むと現場が止まる状態が何年も続いている
- 「経営者なんだからしょうがない」と諦めている
搾乳は自分が見ないと不安。分娩対応は任せられない。飼料の調整も結局自分がやる。「だってスタッフには無理だから」——そう言いながら、朝4時から夜9時まで牛舎にいる経営者がいます。
でも、少し立ち止まって考えてみてください。それは本当に「スタッフには無理」なのでしょうか。それとも、「任せる仕組み」をつくっていないだけではないでしょうか。
「任せられない」の構造
「自分がやったほうが早い」は、多くの経営者に共通する感覚です。そしてそれは、短期的には正しい。経験も技術も判断力も、経営者のほうが上なのは当然です。でも、この「正しさ」が長期的には牧場を蝕みます。
負のループが回っている
経営者がすべてやる→スタッフは経験を積めない→スタッフのスキルが上がらない→「やっぱり自分がやるしかない」→さらに経営者に集中する。これが属人化の負のループです。
このループが怖いのは、経営者自身が「自分は頑張っている」と感じているところです。実際に頑張っている。でもその頑張りが、皮肉にもスタッフの成長機会を奪い、属人化を加速させています。
「都合が良い人材」を求めていないか
「言われたことを文句なくやってくれるスタッフがほしい」——こう思ったことはないでしょうか。忙しい現場では、つい「自分の手足になってくれる人」を求めてしまいます。
でも、それは「都合が良い人材」を求めているだけです。本当に牧場を強くするのは、自分で考えて動ける「良い人材」。そして「良い人材」は、任せてもらえる環境でしか育ちません。「任せられないから任せない」のではなく、「任せないから任せられるようにならない」 のです。
「自分がやったほうが早い」は短期的には正しいが、長期的にはスタッフの成長を阻む。属人化の負のループに気づくことが第一歩。
「任せる」を始める3つのステップ
「いきなり全部任せろ」とは言いません。任せることにもステップがあります。
ステップ1:「任せる業務」を1つ決める
まず、今自分がやっている業務の中から「スタッフがやっても致命的な問題が起きないもの」を1つだけ選びます。搾乳後の機器洗浄、子牛の体温チェック、在庫の確認——「判断」よりも「手順」が重要な業務から始めるのがコツです。
ステップ2:「手順」を見える形にする
選んだ業務の手順を、A4用紙1枚にまとめます。ベテランの頭の中にある「当たり前」を紙の上に出す作業です。この「手順の見える化」が、スタッフに安心を与えます。手順がわかれば、スタッフは自信を持って動ける。手順がないまま任せると、不安と失敗が積み重なり、「やっぱり任せないほうがいい」という結論に戻ってしまいます。
ステップ3:「結果」ではなく「プロセス」を見る
任せた後の関わり方が、成功と失敗を分けます。結果だけを見て「ここがダメだ」と指摘すると、スタッフは萎縮して「やっぱり自分には無理だ」と感じます。
そうではなく、「どうやってやった?」「途中で迷ったところはなかった?」とプロセスを聞く。これはコーチング的な関わり方です。答えを与えるのではなく、スタッフ自身が「次はこうしよう」と気づく力を育てる。この問いかけの積み重ねが、スタッフを「指示待ち」から「自分で考えて動く」人材に変えていきます。
従業員5名程度の牧場を例に考えてみましょう。経営者は「分娩対応だけは自分じゃないとダメ」と思い込んでいました。夜中の分娩コールも必ず自分が駆けつける生活が10年続いていました。
あるとき、3年目のスタッフに「分娩の立ち会い、やってみないか」と声をかけました。最初はチェックリスト片手に経営者も横について観察。2回目からはスタッフ主導で、経営者は電話待機。4回目には完全にスタッフだけで対応できるようになりました。
経営者は振り返ってこう言いました。「10年間、任せられないと思い込んでいたのは自分だった。あいつはずっと、やらせてほしいと思っていたのかもしれない」。
もっと読む
経営者の本当の仕事
すべてを自分でやることは、「経営者の仕事」ではありません。経営者の本当の仕事は、スタッフが自分で考えて動ける「仕組み」と「環境」をつくること。
任せることは、手を抜くことではありません。任せることは、信頼を形にすることです。 手順を整え、任せ、見守り、問いかける——その繰り返しの中で、スタッフは育ち、牧場は強くなります。
「自分がいないと回らない」を終わらせたとき、経営者には初めて「牧場の未来を考える時間」が生まれます。目の前の作業に追われるのではなく、「この牧場をどうしていきたいか」を考える。それこそが、経営者にしかできない仕事です。
- 「自分がやったほうが早い」は、属人化の負のループの入り口
- 「都合が良い人材」ではなく「良い人材」を育てるには、任せる環境が必要
- 「手順」が重要な業務から1つ選び、A4用紙1枚に見える化する
- 結果ではなくプロセスに問いかけるコーチング的な関わりが成長を促す
- 任せることで経営者に「牧場の未来を考える時間」が生まれる