求人を出しても来ない牧場と、紹介だけで人が集まる牧場の違い
- 求人サイトに掲載しても応募がほとんど来ない
- 「畜産は人が来ない業界だから仕方ない」と諦めている
- 採用してもすぐ辞めてしまう繰り返し
- 人手不足が慢性化して、経営者が現場から離れられない
「求人を出しても応募が来ない」。畜産業界で人材の話になると、必ず出てくる悩みです。時給を上げてもダメ、求人媒体を変えてもダメ。「もう畜産は人気がないから仕方ない」と諦めている経営者も多いでしょう。
ところが、求人サイトに一切掲載していないのに「知り合いの紹介で働きたいんですが」と人が来る牧場があります。しかも、そういう牧場ほど定着率も高い。この差はどこから来るのでしょうか。
「人が来ない問題」の本当の原因
求人の「見え方」ではなく「中身」の問題
求人広告の写真をきれいにする、給与を少し上げる、福利厚生を充実させる——こうした施策は「見え方」の改善です。もちろん大事ですが、応募者が求人を見たときに感じるのは「ここで働いたら、自分はどうなれるか」です。
「牛の世話と搾乳。未経験可」——これだけの求人に魅力を感じる人は限られます。「農業をカッコいい仕事に変えようとしている牧場です。チームで助け合いながら成長できる環境があります」——同じ仕事でも、伝え方で印象がまるで変わります。
採用が難しい牧場の共通点
人が来ない牧場には共通する特徴があります。それは、「自分たちの牧場がどんな牧場か」を言葉にできていないこと。
「品質にはこだわっている」「アットホームな雰囲気」——こうした言葉は、残念ながらほぼすべての牧場が使います。だから差別化にならない。求職者の心に刺さるのは、もっと具体的で、その牧場にしかない言葉です。
「うちはチャレンジ精神を大事にしている。だから新人でもアイデアを出せる」「互助の精神がうちのバリュー。だから先輩が必ずサポートする」——こういう「行動に裏打ちされた言葉」があるかどうか。それが、求人のときの説得力を決めます。
採用の問題は「業界」の問題ではなく、「自分たちの牧場をどう語れるか」の問題。言葉にできていない魅力は、求職者には伝わらない。
「人が集まる牧場」はどう採用しているか
採用の第一歩は「定着」
逆説的ですが、採用力を上げる最も確実な方法は、「今いるスタッフの定着率を上げる」ことです。スタッフが辞めない牧場には、自然と口コミが広がります。「あの牧場は働きやすい」「ちゃんと人を育ててくれる」——スタッフの言葉は、どんな求人広告より信頼されます。
ある農場では、人員計画として2名の増員を考えていましたが、まず既存スタッフの定着・育成を優先しました。1on1面談の導入、スキルマップによる成長の見える化、朝礼での感謝の共有——こうした取り組みを半年間続けた結果、スタッフ自身が「いい職場だよ」と知人に勧めるようになり、紹介で1名の採用が決まりました。
「ビジョン」で採用する
給料や待遇で選ばれる人は、もっと待遇のいい職場があればそちらに行きます。一方、ビジョンに共感して来た人は簡単には離れません。
「農業をクールでカッコいい仕事にしたい」「地域と一体になった循環型農業をつくりたい」「次世代に技術と想いを残したい」——こうしたビジョンを持っている牧場は、給与だけでなく「ここで働く意味」を提示できます。それが、同じ想いを持つ人材を引き寄せます。
「うちはこういう牧場です」と語れるか
面接の場で「うちの牧場の特徴は何ですか?」と聞かれたとき、経営者がすらすらと答えられるかどうか。そしてその答えが、スタッフの口から聞いても同じ内容かどうか。
経営者とスタッフが同じ言葉で「うちはこういう牧場だ」と語れる状態——これは経営理念が浸透している証拠であり、同時に最強の採用ブランディングです。
従業員4名程度の牧場を例に考えてみましょう。求人サイトに掲載しても、2年間で応募は3件だけ。面接に来ても「想像と違った」と辞退されることが続いていました。
転機は、経営理念とバリューを策定したことでした。スタッフ全員で「うちの牧場といえば?」を出し合い、「創意工夫」「共存共栄」「リスペクト」の3つをバリューとして言語化。求人にもこの言葉を使い、「こういう想いを持つ牧場で一緒に働きませんか」と発信しました。
すると応募者の質が変わりました。「この牧場のバリューに共感しました」と言って来る人が増え、入社後のミスマッチも大幅に減少。経営者は「求人を変えたのではなく、牧場の中身を変えたら、結果的に求人も変わった」と話しています。
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採用は「結果」であり「入口」ではない
人手不足の解決策を「採用」に求めがちですが、実はその順序は逆です。
まず経営者自身のマインドが変わる。すると経営理念や行動指針が生まれる。それがスタッフに浸透し、定着率が上がる。定着率が上がると口コミが広がり、共感する人が集まる——採用は、この変革のサイクルの「結果」として自然についてくるものです。
「人が来ない」と嘆く前に、「今いるスタッフが”ここはいい牧場だ”と誰かに言いたくなる環境か?」を問い直してみてください。答えがイエスなら、人は必ず来ます。
- 求人が来ない原因は業界のせいではなく、「牧場の魅力を言語化できていない」こと
- 採用力を上げる最短ルートは、今いるスタッフの定着率を上げること
- ビジョンに共感して来る人材は、待遇だけで来る人材より定着する
- 経営理念とバリューが浸透した牧場は、スタッフ全員が採用ブランディングの担い手になる
- 採用は変革サイクルの「結果」——まず内側を整えることが先